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忍禁書外伝的日々妄想

基本ヤマカカで暴走モード。完全腐女子向け。
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『痴漢さん(テンカカ)』※現代パラレル

その日はたまたま他大学の学生中心の飲み会に呼ばれて、それこそ終電ぎりぎりに慣れない路線の慣れない車両に揺られて帰宅しているところだった。
時間と乗り換えの都合上最寄り駅まで帰れないのは痛かったが、二駅分ぐらいの距離なら歩けないこともない。
僕を半ば無理矢理連れ出したバイト先の先輩は、一目惚れしたことが丸わかりの挙動不審さで三次会に向かう一群について行ってしまった。
そういう事情で僕だけ飛び乗った終電の最終車両の窓の外、見慣れない風景を見るともなしに見ていたら、ローカル線の悲しさか人っ子ひとりいなかった車内にようやく誰か乗ってきた。
こつ、と運動靴なんかじゃない、社会人の靴音が響く。
振り返りたくなるほどの強烈な違和感。
車内の様子が反射して映っている目の前の窓ごしに、その人物と目が合った。
不鮮明なその窓ガラスの中で、問題の彼がこちらに近づいてくる。
僕は緊張した。
スーツを着た社会人にしては、不自然なほどに前髪が長い。片目なんか、色素の薄い髪に隠れてしまっている。
だが、それよりなにより思い出したのだ。去年、模試のために制服で電車に乗るたびに、そして会場の大学構内で見かけた、男の姿を。
そう、あの時もこんな風に、僕と目が合うとにっこり笑って……。
一般人の中で僕はこれほどまでにいい男を見たことがない。そんな男が、窓ガラス越しに蛇に睨まれたカエル状態で固まっている僕の体の脇に片手をついた。
密着こそしていないが、満員電車でもない限り、見ず知らずの間柄でこの距離は異常だ。
耳元で、すうっと鼻音がした。
何をされているのか理解が追いついていかないうちに、ジーンズの上からケツをなぞられた。女よりも肉付きが薄いはずの尻肉を手のひら全体で軽くつかまれ、やんわりと揉まれる。
凍りついたまま、感覚をたどる脳内でしなやかな指が布越しのケツの割れ目に食い込み、するりと肛門を探り当てた時、ようやく僕は悲鳴を上げた。
「この、痴漢!」
振り向きざまに肩掛けカバンで殴ろうとしたのに、手応えがない。
つんのめって倒れそうになっている僕の腕を取って、その元凶である男が支えた。
「あれ? 違った?」
きょとん、という表現がぴったりの顔で意味不明の言葉をつぶやいた男を突き飛ばし、僕は即座に隣の車両に逃げようとした。
やばい。変態だ。痴漢だ。イケメンのホモ…!
人生で最も混乱していたといっていい瞬間に、自分がカバンを持っていないことに気がついたのは奇跡だった。
ハッとして痴漢現場を振り返る。
しかし無情にも、カバンは既に今一番拾われたくない人物に拾われていた。
「ふぅん。俺の後輩なんだね、テンゾウ君」
僕が逃げ出そうとして振り返るまでのたった数秒で財布の中の学生証を抜くとは、手癖が悪過ぎる。
学生証に書かれていたのは、確か、大学名、名前、生年月日、学番、学部名……。
つかつかと歩み寄って変態の手から僕の個人情報の塊を奪い返す。
住所までは書かれてなかったのが不幸中の幸いだった。
カバンを肩に掛け直したところで電車はガタンとブレーキをかけて停車し、僕はろくに駅名も見ずに走り降りた。
痴漢男が追ってきたら、逃げて発車ギリギリで隣の車両に飛び乗ろう。そう身構えていたのに、男は動くことなく、扉が閉まった。
ゆっくりと動き出す車両の窓から、こちらを見ている男が見えた。
微笑んでいる。
呆然とそれを見送って、僕は深刻な気分のまま歩き出した。
僅かに残っていた酔いは醒めたけれど、二駅のつもりが四駅ほどの距離を深夜に歩く羽目になったのはさすがに嬉しくない。
「痴漢め。男の僕を狙うとは……。覚えてろ」
しかし、危険が去ってしまってからぶつぶつと文句を言った僕を嘲笑うかのように、望まぬリベンジの機会はそれからすぐにやってきた。
次の日の朝、通勤通学のラッシュの人波の向こうに見えてるのは、まさかの昨夜のあの痴漢だったのだ。
若いが、服装から大学生には見えない。それから、これは僕が彼の正体を知っているという色眼鏡のせいだろうか。一見普通の会社員風だが、伸びた髪にマスクというのが奇妙な具合に胡散臭い。しかも手にはディープな官能小説ばかり出版していることで有名な楽園文庫を堂々とブックカバーもかけずに持っている。あのピンクで乙女な色調は、似てはいるが断じて娘バルト文庫などではない。僕は、今日ほど雑学に長け、無駄に視力のいい自分を呪ったことはなかった。
だが無防備に震えたのは一瞬だった。君子危うきに近寄らず。とっさに人影に隠れたというのに、犬並みの嗅覚でも持っているのだろうか彼は。人波の中、ちらりとこちらを見てにこりと笑った。
中腰になったまま、思わず喉の奥でひっと悲鳴をあげてしまう。
この時間のこの電車に乗られてはお手上げだ。何せ僕は、毎日一時間目からの授業を取っている真面目な朝型人間なのだから。
もしかしてあの痴漢に行動圏内と生活パターンを知られるのは時間の問題なのではないか。
僕は絶望のあまり、目眩を起こした。


****
『痴漢でも萌える男ははたけカカシだけ』という名言を残されたN樹様にこっそりと感謝を捧げます。
この名言をおかずに文字茶しながらうまれたお話です。
うちでは大学生+社会人になりました。珍しく現代パラレルになったのは『痴漢』のお題が忍び設定では難しかったからです。
テンカカなんですけど、将来的に本当にテンカカになっていくのかちょっと疑問なふたり…。
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