どこかに行ってしまう前に。死が二人を分かつ前に。心だけでも俺のものにして捕まえておくんだ。
「好き!」
「……え? すいません。もう一度、大きな声で言ってください」
「好き! だぁい好き!」
ひしっと抱きついたテンゾウの体は俺の二倍ぐらいは身長があって、だから抱きつくというより客観的に見たら下からしがみついたみたいな表現が妥当だったかもしれないんだけれど。
将来俺は、テンゾウのお嫁さん候補をことごとく追い払ってしまう悪い男になるだろう。でも代わりに俺がお嫁さんになってあげれば何の問題もないし! 「初恋はお前なの」と、年の差幼な妻の体力をもってしてテンゾウに鼻血を出させるまで頑張るから!
魚焼き網を片手に俺を見下ろしていたテンゾウは、少しの間呆けていたけれどはっと何かに気づいたようだ。
「あっ、あぁ、秋刀魚のことか……。おいしそうだろう?」
ち・が・う!
勿体つけて自分はなかなか出さないつもりか。
何回好きって言わせんだ!
「この馬鹿! さっさとこのだぼついたアンダーのわきから手ぇ突っ込んでこねくり回したりしなさいよ!」
「うわああああ!? 危ない!」
俺のキラキラ光線が効かないなんて、お前本当に何様のつもり!?
武器だと信じているだぼだぼアンダーの布越しに乳首をテンゾウの太腿に擦り付けてると、「何やってるんですか!」と首根っこをつかまれぷらんと宙吊りにされた。
しかも床にひっくり返った秋刀魚には俺もがっかりだったが(しかしその程度のことならまだ食べられるから何も落ち込むことはない)、テンゾウも方も顔がぬーんと説教モードだ。
「先輩?」
「好きなのに…ぃ」
我ながら声が少し情けない調子でこぼれた。
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あんなキラキラした顔で「好き!」とかびっくりマークつきで言われた日には、テンゾウが言われてるのかと私が胸キュンしてしまったじゃないですか!
仔先輩の「好き!」って、超破壊力だと思た。
好きーー
この瞬発力
ほっさーん
まつもとさんー
いい機会だから主張しておこうか
それってわざと、だよね?
産んで~