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忍禁書外伝的日々妄想

基本ヤマカカで暴走モード。完全腐女子向け。
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『0810』(テンカカ)

感情というものは実に経験と記憶に忠実で、持たざる者にとってのそれは、きっとあまり豊かには作用しない。
僕にとって薄情な出来事はそれのみに限らなかったけど、今日が誕生日だという感慨はさほどない。一年の中のただの一日という日が常と変わらなく終わったのに、常と違う特殊なことを許容されているのだと思うと、何故か不思議な感じだ。
三代目に報告を済ませ、淡々と帰途につく。その途中、暗部専用の簡易シャワー室へと続く通路が視界の端に入った。
己の視線の動きに何かを思い出しかけて、断念する。そう、理由はあったが、きっと取るに足りないことだ。彼の『気まぐれ』に意味を持たそうなんて。
「テンゾウ」
その時。
まさに目が探していた人物から声をかけられ、僕はそんな心の動きを見透かされたかのようにギクリとした。
「カカシ先輩」
何の気配もなかったのに、背後にその彼が立っていた。
この暑い中、彼は、珍しく木の葉の正規服を着ていた。秀麗な顔は斜めにかけられた額宛と口布に隠され、露出の多い暗部隊服を着用している時に比べると印象がやや男らしい。
俊敏そうな手足も長袖の下に隠されて、唯一手甲との隙間から覗く手首が妙に目につく。
任務ですか。そう口を開く前に、彼はおもむろに一枚の書類を軽く僕にかざして見せた。
そこに貼り付けられた僕の顔写真と、朱色で押された『極秘』の文字印に視線が引き付けられる。
果たして、動揺を隠しきれたかどうかわからない。恐らく予想通りに言葉を失った僕の反応に気をよくしてか、カカシ先輩が唯一晒している右目をきゅうと弛ませて笑う。
「どういうことですか」
口布の下の唇も、何故か笑いを刻んでいる気がした。
「一体どうやって、それを……」
「どうやって、じゃなくてさ。どうして、ってところが重要なんじゃないの?」
この人は饒舌な方ではない。数少ない接触でそうと知っていたが、このすっとぼけ方はまた酷い。
――い、った、テンゾウ……。
眉を顰めながら、つい先日の、笑いを含んだあの声を思い出す。
――お前、もしかして痛くするのが趣味なの
ははっ、と、掠れた笑い声を立てて、息を飲み込みながら言ったあの時の表情を。あなたこそ、男は初めてなんじゃないですか。と、優しさからなんかではなく、油断ならないひとりの男を突き詰めたい僕を見透かし抑えこんで、決して優位な立場は崩さなかった彼を。
甘い言葉なんか囁かないくせに、僕の秘密に土足で踏み込んできたあなたという存在が今日という日を特殊なものにしていた。
自分のことなのに知らない、そして知りたい事柄は確かにあった。なのに、むしろその紙切れよりも先輩の笑う瞳から、今、視線が外せない。
ふいに、幾重もの封印で守られていたはずの僕の身上記録が、炎になめられ灰に変わった。
炎は先輩の指を痛めることなく、食らうべきものをすべて包み込んだらじじじと空気に溶けて消え。
それでもまだ、僕たちは動かず見詰め合っていた。
その優秀な頭脳には、僕に関する、僕の知らない情報が入っている。
去っていくカカシ先輩をそのまま見送って、僕は予感した。
彼を今後、穏やかな気持ちでは見られないことを。

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