パニックになったらいいのに。
視界に、先輩の唇が動いているのだけが見えた。
そして声だけが聞こえて、理解は常に一瞬後だった。
随分と長い先輩の告白は、僕の心を通過して。僕は、多分無表情のままに、全ての道を考えた。
素直に泣くのには、咄嗟に凍結してしまった感情が足りない。
そういえば酷く蒼ざめている先輩の頬に、触れてもいいんだろうか。
慰めを与える僕の指は、機械的な動きに支配されていた。
忍びとして生きてきた楔が、こんな時にも穿たれる。
これは見えないところから作用している報いか。
取り乱したらきっとかわいげがあるのに。
泣いて叫べたら、きっとまともに悲しめるのに。
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最近説明不足を楽しんでいてすいません。人によって180度違う解釈でもなんでもいいと思う。
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