松本様からネタをいただいちゃったので、文に起こしてみました。
ふああ。メールで見た時は爆笑したのに…。テンポ悪くてすいません(涙)。
「せっ、先輩……!」
「んー?」
呑気に振り返った先輩の口には僕の緑色の歯ブラシが咥えられていて、戸棚の奥から引っ張り出してきた来客用の使い捨ての歯ブラシを手に、僕は凍りついた。
罠が! こんなところに罠が隠れていたなんて!
任務の打ち合わせをして、ご飯を食べて、何故だか自然にくっついてきた先輩が僕の部屋でくつろいで、最後には「泊まってくよ?」なんて軽く言われた日には、個人的に長くなりそうな夜に対してかなりの覚悟をしていたつもりだ。
布団は別々に。不自然でない程度に離して、先輩を意識しないようにして寝なきゃ。寝るんだ。大丈夫だ。任務で同じ部屋どころか寒さに震えて温めあって眠ったこともあるじゃないか。大丈夫。大丈夫。大丈夫…と自分に暗示をかけていたところでこの光景。
シャカシャカと歯を磨いている先輩の様子から、目が離せない。
歯磨き粉を同じチューブからとるのさえ緊張しそうだった僕の目の前で、先輩は平然と僕の歯ブラシで歯を磨いている。
え……?
あれ?
どういうことですか。先輩。
普通、いくら仲間だからって、歯ブラシの共有まではしませんよね。い、いや、世の中の恋人同士だって、まさか歯ブラシの共有までは…って、するのか? 僕が知らないだけで、す、するのか…? 恋人同士なら。体の関係があれば? え? え? まさか、先輩…。それは先輩…オッケーってことですか?
一気に心拍数が上がった僕の目の前で、先輩は口をすすぎだした。
まだ先輩の手に握られている僕の歯ブラシ。あの後に…、僕が使うのか!? えっ? えええ! い、いいのだろうか。先輩の唾液がついた僕の歯ブラシ…変態ぽくないように、自然に咥えられるだろうか。いやいや、待て待て、いくらなんでもそれは先輩も嫌がるかもしれないし。っていうか、嫌がられたら僕、立ち直れな…ぃ…。こ、ここはあの歯ブラシは使わずに、この来客用のでやり過ごした方がいいんじゃないだろうか。…でも、もし、もし、万が一先輩が僕に好意を抱いていたとしたら、『テンゾウ、俺の使った後じゃイヤなんだ…』って思われたりしたら…!?
思い悩む僕を余所に、先輩は「ぷはー」と顔まで洗って壁にかかっていた僕の使用済みタオルで拭いた。そして、僕の手に握られていた使い捨て歯ブラシを見るなり小首を傾げた。
「あ。折角用意してくれてたのに、テンゾウので磨いちゃった。ごめーんね?」
謝罪のポイントが僕の感覚とは少しズレているということについて深く考えるのはやめよう。
僕の想い人がただの『天然』なのか、それとも『OKのサイン』を出しているのか悶々と悩みつつ、僕は「はい」と当然のように手渡された僕の歯ブラシで歯を磨いた。
ただ歯を磨くだけのことに、ありえないほどドキドキした。
……重症だ。
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