「もし、忘れなかったら、僕のものになってくれますか」
深い、静かな奴の視線に、実はその時俺は怯んだ。
黙って写輪眼を廻して、この任務で起こった想定外のことだけを、偽りの強烈な戦闘の記憶に塗り替えてしまう。
めまいを起こしたらしきテンゾウが、俺の肩をつかんで、完全に意識を失う前にその唇が微かに俺の名前の形に動いたのを見た。
……お前、幻術の耐性にどれほど自信あるのよ。
そうだ。
ありえないことだとわかっていた。
意志の力で術を覆すことができると信じた男は、今、俺とは別の人間を傍に置こうとしている。
賭けは、お前の負け。
テンゾウとくノ一の後姿を見送って、俺は意味もなく両目を開け、夕焼けに染まっていく里をぼんやりと眺めた。
緩やかに。断片的に。忘れられない記憶が不鮮明に脳裏で揺らいだ。
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