病室の花瓶に手をかけた瞬間、寝台で身を起こしていた先輩に制止された。
「あとで俺がやるから、リン」
咄嗟には振り向けないままで、あんまり動かないのも体が鈍っちゃうから…という先輩の独り言を聞く。
「はい」
恐らくサクラが持ってきてくれたのであろう花を弄りながら笑顔をつくろおうとして僕は失敗した。
まただ。
「……万華鏡写輪眼を使ったんですね」
先輩が軽いため息で答えるのを背中で聞く。
開いた先で、ひとつ。またひとつ。
何かの予感に、胃の腑に重いものが落ちる。
うちはオビト。
享年13歳。
単純計算で、先輩の今の年齢の半分以下の記憶。
しかし、彼がカカシ先輩と共有している数年間は、強固な融合を見せて、先輩をして時に僕を「リン」と錯覚させる。
写輪眼を開くたびに、ひとつ。またひとつ。
「僕が生きていても支障ないんですね……」
「お前の命で開眼したのにね」
先輩は、一番親しい人間である僕を『殺した』絶望の中で開眼した。
涙と血で泣きぬれた先輩の瞳を最期に見た時、僕は実は、悦んだ。
木遁を使う度に初代様の『視た』世界は鮮明になっていく。
僕は僕だけのために死ぬことが許されるとは、その瞬間まで考えたことがなかった。
先輩はきっと、過去の思い出よりも先に僕のことを忘れていくだろう。
それでも。
捧げる。
僕が自由になる僕の全てを。
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ヤマカカ萌えの初期は二人とも過去や細胞の記憶に『侵食される』イメージでした。
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