眠りはもともと深い方ではない。
何かの予感に目を覚ました僕は、薄暗い部屋の中、隣で眠る先輩の方に視線を移した。
連日の任務のせいか最近少し神経質になっていた先輩は、昨夜乱れるだけ乱れて、情交中に気を失ってしまった。
『ひとりに執着するなんて、初めてだから、勝手がわからないの』
僕が止めなかったら、先輩は誘われるがままに浮気していた。
そんな場面を僕にわざわざ見せつける先輩の性格の悪さ、深さには閉口する。
微笑むだけでいやらしい顔になる先輩は、僕の怒りなんか軽くいなして『子供の頃からやり直さないと、俺のこの性格は直らないかもね?』なんてひとりだけ楽しそうにして、笑う。
人前では上手に隠していたから深く付き合うまで知らなかったけど、この人は感情の起伏が、結構激しい。
僕を笑う表情の中に少しだけ混じった異質な感情。
愛しみ溶け合うものではなく、ただただ不安を解消するような交わりの果てに、気絶するように眠りの世界に逃げた先輩は、大人のパジャマの中で、子供の姿になっていた。
大の字になってすーすーと寝息を立てている子供の先輩を、こうして見るのはもう三度目か。
着ている物と体のサイズが合わなくて、あちこちずれて肌が見えている。
そっと直してやったら、ぶるっと震えて「テンゾウ…」と寝言を言い始めた。
ぽんぽんとお腹の辺りを優しく叩いて「なんですか」と問うと、「テンゾウは死なないよ。だって俺が守るから」と何だかどこかで聞いた生意気な口を利くから、『テンゾウは暗部の中じゃ弱い方』という発言を思い出して腹が立ち、ほっぺたをぎゅうとつねってやった。
お尻の穴だけじゃなくもちろん鼻の穴も小さい子供の先輩は、頑固に睡眠から覚めないまま、痛みに眉根を寄せながら、ふんふん鼻息を荒くしている。
その様子があんまりにも可愛くて可笑しかったので、僕は先輩の小さな頭を引き寄せて横になった。
決して『僕の意のままになるから好き』だなんて酷いことを言うつもりはないけれど、寝ていても子供の先輩は、大人の先輩とは違って、かわいい。ついこうやって甘やかしたりいじめたくなる。寝言に返事をしたら子供のまま起きるんじゃないかと、埒もないことを考えてしまう。
子供の先輩の暖かさにうとうとしだした頃、小さな鼻がくんくんと音を立てた。
「テンゾウ…?」
小さな指も、僕の首に絡みついてきて髪をぎゅっと引っ張った。
「先輩」
苦笑してその指をつかんだその時、
「挿れて…挿れてようテンゾぅ」
「……は?」
「きつくて絶対気持ちいいからぁ」
「…………」
可愛いしぐさに和んだのも束の間、子供の寝言というにはあまりに下世話な内容に僕は呆れた…というより、若干ヒいた。
子供の癖に、いや、子供だから思い込んだらしつこいのだろうか。
「まだそんなこと言ってるんですか。……いい加減にしなよ、キミ」
再びそのほっぺたをぎゅうぎゅうつねってやろうと僕にすがりついている小さな手を引き離したら、チッという舌打ちが聞こえてきた。
し、舌打ち!? 子供の癖に舌打ち!?
諸々の幻想が打ち破られる中、腕の中の先輩を覗き込んでみたら、大人顔負けのふてぶてしい顔をして寝ていた。
『子供の頃の俺も今の俺とそんなに変わらないから』
大人の先輩のそんなセリフを思い出す。
まさか。
* * * *
仔先輩話は書ける時期を見計らって暖め中なのですが、突発でちょっと書き書き。
のぎわさん
無題
のぎわさーーん