あれは任務だった。
遺体もなく消えた下忍や、過酷な任務を耐え抜き帰還途中にあったはずの暗部。
狡猾かつ慎重に繰り返される「失踪」は徐々に強引な手口に変わっていき、木ノ葉の上層部は音もなく対応した。
特殊な発信器具を腹の内に飲み込んだ9人の囮のうち、実際に攫われたのは僕ともう一人の下忍の少女だったという。
建物の規模。人の気配。漂う臭い。
僕は詳細にそして克明に記憶した。
攫われてから少々日にちが経ちすぎていることに一抹の不安を覚えながら、僕は任務を遂行した。
その情報が役に立つ日が来るかどうかわからない中、僕は見続け、自分に施される全てのことを記憶に刻み続けた。
記憶し、分析し、考えることだけが、生きている証のように思えたあの苦痛。
あの日僕が死んでいたとしても、今日の空はこんなにも晴れ渡っているんだと思った。
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